1992年から93年にかけてドイツのハンブルク市立美術館で行われた、ゴヤの版画集 『戦争の惨禍』 に焦点をあてた展覧会に合わせ刊行された一冊。
ナポレオンのスペイン侵攻に端を発する 『スペイン独立戦争』 のさなか、ゴヤ自身がその地で見聞きした生々しい現実を、当時の主力複製技術であった版画をもちいて、リアルタイムに、瓦版的に、広く大衆へ知らしめようとして描き出されたのが本版画集です。
しかし、その血生臭い描写が仇となったのか、実際に刊行されたのは戦争終結後49年、ゴヤの死後35年経った1863年という曰く付きのもので、本書ではハンブルク市立美術館で新たに見つかった版を中心に、1863年の初版時の80点の作品を基軸に、ゴヤの生前に刷られた試作品にスケッチなども併せ美しいプリントで紹介されています。
写真が生まれる以前に描かれ、クリミア戦争での <なまの現実> を伝える報道写真誕生以降に刊行された、何か因縁めいたものを感じさせる本版画集を見つめていると、頭の中で <リアルのスイッチ> が 「パチッ!」 と切り替わって、前近代的蛮行をありありと実感させてくれる、そんな、写真技術が <真実> を映し出すために生まれたメディアではなく、 <リアルの結び目> に根拠を与えるために生み出されたメディアであったということを改めて再認識させてくれる、オトグスおすすめの一冊です。